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感動と驚きの仕掛け人vol.3|アバター事業担当者に聞く

インタビュー デジタルコンテンツ

アバター事業担当者 飯嶋瑞生(株式会社壽屋 経営企画室)

 

壽屋では、2020年12月からデジタル領域の事業を始めました。その1つが「アバター」の販売。VR(バーチャルリアリティ:仮想現実)の世界はそもそもゲームなどで慣れ親しんでいないと分かりづらいもの。「アバター」を使ってコミュニケーションが広がる・・・と聞いてもなんのことやら、という人もまだまだ多いと思います。そこで、VR超初心者でも分かる「アバター」のキホンの“キ”を、アバター事業担当の飯嶋瑞生に聞きました。

 

「アバター」は自分の“分身”となるキャラクター。実は身近な存在です。

―そもそも「アバター」って何ですか?

まったくゲームをしない人に「アバター」を分かりやすく説明すると、“遊園地の着ぐるみ”と言えるかもしれません。
身近な利用例でいえば、Web上での自分の“分身”となるキャラクター、SNSのアイコンとして自分の写真の代わりに使うイラストのようなものも「アバター」と言えます。

昨年発売されて大ヒットした「あつまれ どうぶつの森」というゲーム、知っていますか?
これはプレイヤーが無人島に移住して一から生活を始めるというゲームなのですが、プレイヤーはそれぞれ、あらかじめ用意されているキャラクターを元に髪形や顔、洋服などを組み替えて「私はこういう人です」というのを作って参加します。
これがゲームの世界での自分の分身、「アバター」です。

また、いま人気の「Vチューバー」も「アバター」です。
「Vチューバー(バーチャルYouTuber)」というのは、2Ⅾや3Dのキャラクターの姿で動画配信やライブ配信を行うユーチューバーのことで、「キズナアイ」さんなどが有名ですが、動画配信者がアニメのキャラクターのような「アバター」を使って活動しているのです。
「Vチューバ―」がその姿や個性を活かしてSNSで積極的に発信したりすることで、キャラクターがまるで自分と同じ世界に生きているよう感じてしまうんですよね。

こうして今、スマートフォンやパソコンでインターネットを楽しんでいる人たちは、自分が違う姿形のキャラクターになってゲームに参加して会話したり、Vチューバー に夢中になったりすることで、「アバター」に接しているのです。

―なるほど。インターネットで遊んでいる人たちにとって「アバター」は身近な存在なのですね。
 ところで「アバター」を使ってのコミュニケーションというのはどうなっているのですか?

今、こうやって僕たちは、対面で話していますけれど、VR上ではお互いの姿はキャラクター(アバター)になって、そのキャラクターから声が出て、身振り手振りがついて会話することができます。

―声は肉声が出るのですよね? 動きもつけられるのですか?

VRデバイス(ヘッドマウントディスプレイ)を着ければ、身振り手振りもできるようになっています。
以前からゲームでは、動きがない棒立ちの人同士が、チャットで会話するということはありましたが、2017年くらいになってVRデバイスが普及し始めてからは、身振り手振りもコミュニケーションに入れられるようになりました。

今でもゲームの中では、立って会話している人(アバター)と、身振り手振りのできる人(アバター)が一緒に遊んでいることがあるのですが、動ける「アバター」と会話して「おもしろっ!」と思った人は、1週間後くらいには「VRデバイス買っちゃいました」となりますね(笑)。

コトブキヤコレクションONLINE 2021[Winter](2/27)で解説を務めたアバターキャラクターの「コトコレちゃん」

 

「VRChat」というプラットフォームが出来てVRの世界が大きく変わりました。

―ゲーム以外の場所でも「アバター」でコミュニケーションすることが盛り上がってきているのですか?

盛り上がっています! 例えば踊りができる人たちは「アバター」を通して世界中の人とダンスバトルをしたり、音楽をやっている人たちはライブを開いたり。そういうことが起きています。

VR空間の中には、海の底から宇宙の果てまで、神社も高層ビルも宇宙船も、ワールドクリエイターと呼ばれる人たちがいろんな“ワールド”を作っています。その“ワールド”にみんなで集まってコミュニケーションするというのが今の遊び方です。

―ワールドクリエイターというのは「場所」を作る人ですか?

「ゲーム」という仕組みの中には、場所である“ワールド”とか、ゲームの仕掛けである“ギミック”、主人公となる“キャラクター”やゲームの勝敗を決める“ルール“などがあります。
この“ワールド”や“キャラクター”は、今まではゲームを形作る1つの素材でしかなかったのですが、「VRChat」というサービスが出来て、それらも主役になりました。

「VRChat」はいわば広大な“更地”で、そこは、「誰が来てもいいし、何を持ってきてもいいですよ」という場所。テントを張ってもいいし、ビルを建ててもいい。
これまでは、そういうものを作るにはプログラムを書かなければならなかったのですが、「VRChat」はその技術の土台になる部分はだいたい用意してくれたんです

―うーん。そのイメージがなかなかつかめないのですよね。

たとえば自分で本を書いたら、それを人に見せたくなりますよね。
本なら、友達に貸したりしてその内容もすぐ理解してもらえるけれど、3Ⅾモデリングで人物や建物などを作っている人には、それそのものを見せる場がなかったんです。

そこで「VRChat」が、みんなで集まれる空間を作ってくれた。
「VRChat」には人がいて、それらの3Dデータを見せることができた。
そうして、お互い知らない人たちがVR空間上で出会って、「その“ワールド”すごくいいね。僕そこでライブしたいな」とか、「そのアバターかわいいね。専用の衣装を作りたい」とか、クリエイター同士がコミュケーションをとってコラボしていく、ということが起きてきました。

「『VRChat』は面白い!」という人がどんどん集まってきて、面白いワールドとか、カッコいいアバターなどが増えていく。
人が増えれば増えるだけアイデアや技術が高まってくるという感じですね。
それまでは3Dデータは何らかの製品を作るための部品であったのが、今は、データそのものに価値があるという状況になったんです。

―「アバター」によるコミュニケーションの面白さって何ですか?

VR空間上で、アバターを身に着けることで、初対面でも会話がしやすくなります。
分かりやすく言うと、キティちゃんの着ぐるみが向こうからやって来たら、警戒心なく「かわいい!」と抱きつけたりしますよね。そんな感じです。

例えば、仕事で新たに結成されたチームで、自分以外全員年齢が20歳以上離れていたり、自分だけ性別が異なっていたりすると、チームが円滑に機能するまで、大変な気苦労があると思います。
ところが、「アバター」ならそういうのはお構いなしに、安心を感じられる姿で出会え、年齢も性別も、人相や体格などに関係なくスムーズに会話ができるのです。

今、インターネット上で物の売り買いや、データの売り買いがとてもしやすくなっているということ、さらに “セルフブランディング”というか、自分を売り込むっていうことに関してかなり前向きな機運が高く、自分でアバターを作って、「こんなアバターできたから買ってください」ということも行われるようになってきました。

―「アバター」で遊んでいるのはどんな人たちですか?

VRに関して言えば、若い男性が多いですね。女性は2~3割程度。
これはヘッドマウントディスプレイのせいでもあって、お化粧していたり、髪形を整えたりしている女性は着けたくないらしいです。
今後、ヘッドマウントディスプレイの問題が解決したら市場はガラッと変わると思いますよ。

「監督ちゃん」試着会でのひとコマ

壽屋がプラモデルのメーカーとして「アバター」事業に参入した理由とは。

―当社の作った「アバターちゃん」は女の子のキャラですが、ユーザーは男性が多いのですか?

はい。もともと20代男性をターゲットに商品開発をしています。

VRで遊ぶとき、男性も女性も、かわいい女の子の「アバター」を使う傾向が強いことが分かっています。
かわいい女の子の姿形をしていると、みんなに「かわいいね」と言われ、男性であろうと、女性であろうとうれしい気持ちになります。
なので、この世界を楽しむためのアバターとして、まずはかわいい女の子のアバターを用意しました。
声は、女性型のアバターから男性の声が出ることも受け入れられています。
一方で女性の声にしか聞こえない声を出せるように鍛えている方もいらっしゃいます。
今はボイスチェンジャーも優秀なものがあり、アバターによる見た目だけでなく、声も自分の望むものを作ったり選んだりできるようになってきました。

―当社がなぜ「アバター」事業を始めたのかを教えてください。

我々のプラモデルでの知見を活かせるからです。

壽屋の「アバターちゃん」シリーズは、アバターを作ることに面白さを感じている方に向けて開発・販売しています。
3Dデータに直接手を加えたり、改造したり、そのプロセスそのものに面白さを感じる感性は、プラモデルを作ることに楽しさを感じる感性に近いと考えています。

「アバターちゃん」のシリーズでは、「店員ちゃん」に続き「監督ちゃん」というアバターを発売しました。
データは、それぞれ4つのエディションに分かれていて、「VRC エディション」「VRM エディション」「モデラーズエディション」「通常版」というのがあります。その中で、作ったり改造したりという楽しみが味わえるデータが含まれる「VRCエディション」や「モデラーズエディション」がよく売れています。

 

「アバターちゃん」シリーズについての詳細はこちらから。
https://www.kotobukiya.co.jp/event/event-230568/

 

zenさんによる「店員ちゃん」色変え例

 

「アバター」事業を始めた背景はいろいろありますが、1つはさまざまな道具が安くなり、だれもが遊びで始められる世界になったということがあります。

パソコンの値段も安くなりましたし、3Dデータを作るためのソフトウエアが無料になり、ゲームを作るソフトウエアも趣味で使う分には無料になりました。
だから3Dデータを作れる人、趣味で作る人が出てきて、そういう人たちがブログやSNSなどで「こういうふうに作ったらうまくいきますよ」ということを発信したりするので、情報も集まりやすくなってきました。
それが、「今なら壽屋でアバター事業ができる」と思ったきっかけになりました。

それからもう1つ。
3Dデータを作れる人たちが、「CGモデラー」とか「3Dモデラー」という花形職業になってきたことですね。
なんといっても希望があります。

Vチューバーが3Dモデルになって、動画で「新しい体です!」というおひろめ会をされていますが、その3Dモデルを作った人はヒーローなんです。
そういうのに今の中学生や高校生が触れて、「自分もいつかこういうモデルを作りたいなあ」と思ってくれればうれしいですね。

フィギュアの世界では、形を作り上げる「原型師」という人たちがいます。
自分で手を動かして物を作るのが楽しいということもありますが、「原型師」は名前が残る。そこに憧れがあるんです。
いま3Dデータにも、その憧れが感じられます。
“誰それさんが作った3Dデータ”ということに価値が出てきたんです。
そこがすごく楽しみです。

なので、教材的なビデオを一緒に用意して、「アバターちゃん」を買って、こういうふうに遊べば、少なくとも3Dデータづくりの第一歩は学べますよ、ということをやっていきたいと考えています。

さらに、もう1つ挙げると、「アバター」が生活用品だということですね。
「アバター」でコミュニケーションを重ねることは、その人の生活や人生の一部となります。
このコミュニケーションのために必要な重要なアイテムが「アバター」です。
このVRの世界で会話をしている生活をしている人たちにとってはとても重要な生活必需品ともいえます。

これまで壽屋は、趣味性が高い嗜好品に向き合って技術を蓄えてきました。
その技術やノウハウを生活用品に転換できる、ということに期待を抱いているわけです。

 

最後に、壽屋が展開する「アバター」事業について、VRChatに詳しいリーチャ隊長さんにマンガを描いていただきましたのでご覧ください。

 

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