感動と驚きの仕掛け人vol.1|「創彩少女庭園」のプロデューサーに聞く(3)
インタビュー「創彩少女庭園」企画/総合プロデュース 亀山 直幸(株式会社壽屋 企画チーム)
「創彩少女庭園」の企画者で総合プロデューサーを務める亀山直幸のインタビューもいよいよ最終回。亀山自身の仕事観にフォーカスします。
このインタビューは全3回の連載です。過去の記事はこちらからどうぞ。
(1)“メカ美少女”の遊び方の変化をヒントに“普通の女の子”のプラモデルが生まれた
(2)“誰にでも好かれる等身大の女の子”というキャラクターづくりを支える女性スタッフ
遊びを考えることがライフワーク。頭の中は新しいプランでいっぱい!
―壽屋のプラモデルの企画の仕事について、大まかな流れを教えてください。
担当者によって異なるのですが、私の場合はコンセプト作りとユーザー層のリサーチから始まります。
特に大きなシリーズの立ち上げには年単位で準備を行っているので、類似となる商品の販売動向などを追っています。
「創彩少女庭園」の場合だと、「FAガール」の売り上げをベースにして最大売り上げ規模とユーザーさんの好みが変化していくのがわかった(「FAガール」のメカ部分を作らない層が出始めた)ので、それに最適化していくようにコンセプトを考えます。
あとは、同一のコンセプトでかつ仕様違いについて迷ったりした時には、両方の仕様で機構試作を作ったりすることもあります。
実際に商品に近い試作品を触って遊んでみないと、その商品の魅力や弱点が浮かび上がらないですし、企業として多額の資金を投入することに不安も残ります。
「創彩少女庭園」の場合は、可動性能よりも見た目の美しさを選びました。
可動重視の仕様の場合、外観にロボットのような分割線が出てしまうのが美しさを損なうという判断のためです。
ここまでで、販売したい商品の仕様が分かる試作品と、それにまつわるコスト感がわかります。コンセプトとターゲットも定まり、市場に投入した際の実際の売り上げ規模が投入する資金に対して満足できるかどうかの判断の後、シリーズが本格的に始動します。
その後、商品展開の順番などを決定し、ユーザー層拡大のための施策などを検討していきます。企画の仕事として重要なのは、どう売り出していくかというプロモーションの部分が大きな比率を占めるので、多くのプランの中から効果的なものを取捨選択して実行に移ります。
―企画の仕事のやりがい、醍醐味は何ですか?
企業理念にもありますが「高品質な商品を提供し続けることで、社会に貢献できる」ということ、「仕事を通じて人生を豊かにする」ということを実践できるというところでしょうか。
これはあくまでも個人的な感想の域を出ませんが、私にとっては手に取ったお客さんに喜んでもらえることや、世に出た商品が新しい価値を持つということに喜びを感じます。
実は森倉さんも同じような価値観を持つ人で、自分が得意なことで社会に対して貢献できるというところに喜びを見出す人です。
だから一緒に仕事をしていて成長できますし、共感もできる。これは非常に恵まれたことだと思います。
「創彩少女庭園」はまだ発売していないので、「ヘキサギア」を例にさせてもらいますが。実際に手に取ってくれたお客さんとイベントなどでお話した際に、笑顔で商品の良いところを語ってくれたりすると「苦労しても良い商品を作って良かった」と思います。
―今の仕事に就くまでにどんなことをやってきましたか?
幼少の頃からブロック玩具で遊んだり、絵を描くことが好きでした。
今にして思えば、こういった工夫して遊ぶということに慣れ親しんだことが、カスタマイズを前提とした商品を作りたいという動機だったのかもしれません。
高校1年生の頃にはずっとイラストを描いていて、将来はそういう仕事に就きたいと美術系の大学に進学しますが、現実は厳しく、イラスト方面の仕事は諦めて印刷会社のデザイン部に就職するもいろいろあって挫折。
まったく違う業種に行った後に、その当時もっとも興味のあった玩具業界に行きたいと考えて、コトブキヤの販売員(大阪日本橋)になりました。
一貫してやってきたことは、次のステージに行けるように常に何か得られるものがある仕事を続けたことかと思います。
イラストは、描き上げるのに体力も精神力も必要なのでそういった根気を養い、デザイン系の仕事をやったことで、アドビ関連のアプリケーションを学び、関係ない業種をやったことで、興味のある仕事に就けたらそれだけで恵まれた環境にあると気付いた。そして、販売員としての仕事で顧客の求めるものがよく分かるようになり、今の自分が作られたのだと思います。
―これまでの壽屋の仕事で一番印象に残っていることは?
私の持論ですが、人生の大半は仕事に費やすので、仕事は生活のためだけではなく有意義な時間を過ごせるものであってほしいと考えています。
趣味に活かせるものであったり、学びが欲しいという気持ちもあります。
私が入社した際に面接対応してくれた当時のコトブキヤ大阪日本橋の店長に話したのは「1年365日のうちのほとんどを楽しく過ごすために、楽しいと思える仕事に就きたい」ということ。このことにすごく共感してもらえて、すぐに採用と決まったそうです。これはすごく印象に残っています。
そういった経緯から、毎日を楽しく過ごすために良い仕事をしたいと考えていますし、一緒に仕事をするスタッフにもそう感じてもらえると良いなと思います。
企画部に配属されてからは、ユーザーさんと一緒に商品を作ってきたという感じなので、SNSやイベントを通じて商品企画をやってきたことでしょうか。
Aという商品を提案してユーザーさんがAをベースにした派生遊びを始める。私はそれを見て、今後の商品でユーザーが遊ぶ方向性というのを先読みしたラインナップを決めているものですから、仕事ではあるんですが、一緒に遊んでいる感覚もあって毎日が楽しいですね。
―仕事をする上で大切にしていることは何ですか?
仕事なので楽しいことばかりではないはずなんですが、私自身は出社するのが楽しいです。
夜寝ている時にもアイデアが湧いたりして、スマホのメモ帳に書き留めたりする。“仕事とプライベートは分けるべきだ”という考え方もありますが、私の場合は遊びを考えることがライフワークになっているので、出社後にするのは主にアウトプット。ほかの人に分かりやすく伝えるためにブラッシュアップする作業です。
常に頭の中にはまだ人に見せていない新しいプランがあり、何かチャンスがあればそれを具体化する準備をしています。
要約すると「いざという時のために常に準備を進めておいて、いつでも飛び出せるようにしている」ことでしょうか。
人前に立つ機会が増えて、企画のやり方などを聞かれることも多くなりました。
「こういうものが好きだから企画をやりたい」と言う若い人たちには、「これが好きというだけではなくて、その企画を最後までやりきる根気、周りの人たちと調整する力、周りの人たちを巻き込んでいく力を大切にしてください」とお伝えしています。
こういう話が、これから何かの企画などを目指したいという人の参考になればうれしいですね。
[完]